ある3人組のバンドがいた。
デビュー以来、7枚のアルバムをリリースし、一度も立ち止まることなく常に進化を続けた。しかし契約満了に伴い活動停止。彼らの活動期間は1994年から2003年。その間に売れることもなく、ましてや報われることなどなかった。それどころか、バンドのリーダーは活動中に精神破綻をきたし、その道程はしっかりとアルバムに刻印されてしまっている。
AKB48総監督・高橋みなみは「努力は必ず報われる。私の人生をもって証明します」という名言を残した。たかみなだからこそ、の説得力のその言葉。しかしその10年近く前に、そうでもないことを証明してしまったバンドが、GREAT3だ
いい音楽が必ずしも共有されるとは限らない。しかし彼らほどその底なしのポテンシャルと、世界基準の完成度に見合った「理解」をされなかったバンドもないだろいう。
まるでブライアン・ウィルソンとカーティス・メイフィールドが「学園祭でヒーロになる!!」という共通認識の元で意気投合。ダブル・フロントマンでバンドを組んじまったみたいな尋常じゃなさ。翌日、学園一のとびっきりの変態・プリンスが「コ〜ホ〜、アオっ!!」と飛び入り参加。だから、出てきた音楽はとびっきりメロディアスでありながらも、蠱惑的でセクシー。その上ごっさファンキーなの。ただボトムが極太だから、力強いロックでもある。そんな夢みたいなバンドが日本にいたのよ。
そんでもってこのアルバムに関しては、学園一の理系の秀才であるジョン・マッケンタイアをミキサーとして召集。彼独特の物理脳でサウンドをハードディスクレコーティングで緻密に再構築。彼ら持ち前の「むせかえるようなエロ」から汗とアソコの匂いを消臭。逆に知性と思慮深さをドーピング。な・もんですから出来上がってきたサウンドは、尋常じゃなくエロかしこい。ある意味、リリー・フランキー脳をもった北川景子みたいな。
このアルバムを聴いていると、ある記憶が蘇る。
それは僕が小学6年生の晩秋の下校時に感じた、あの感じ。部活も夏で終わって、数か月後に控える中学入学。自分の意図とは関係なくどんどん大人への階段を上らされる不安感。そしてそれに拍車をかけるように沈む夕日と果てしなく広がる厚い雲。あの下校時の記憶と湿気と匂いが脳内に勝手にリピートされてしまう。ただ無性に切ない、あの風景。
それこそが彼らの5thアルバム「May and December」。
そんなGREAT3は2012年の11月に9年ぶりの新作をリリースする。
素敵じゃないか。今度こそきっと報われる。
Quincy / GREAT3